株式会社ノーチェ

コラム 第2話:ストレスチェック結果を上手に活用するために

ストレスチェックの結果を会社としてどのように活用するのがよいのかーー。


最も大切なことは、 ストレスチェックに何を期待するのか明確にするということです。
これは同時にストレスチェックの限界を見極めておくということでもあります。


期待の内容とレベルが適正なものであれば、人事担当者の方も受検者の皆さんに適切なアナウンスができますし、受検者もストレスチェックでどこを気にするべきか、あるいは気にしなくてよいのか、理解しやすくなります。
反対に、過度な期待を受検者に抱かせてしまうと、がっかりされ、翌年以降、適当な回答をされるおそれも出てきます。


ストレスチェックに何を期待するのか考える際に、以下のことを考慮することをお勧めします。


①内容の妥当性の問題 

ストレスチェックに入れる設問はその企業の自由です。
ストレス要因、心身のストレス反応、周囲のサポート、の3つについて尋ねる設問が入っていれば何でも構いません。


しかしながらほとんどの企業は、厚生労働省が推奨している57問の「職業性ストレス簡易調査票」を用いています。
ストレスチェック業者のほとんどもこれを使っています。


この「職業性ストレス簡易調査票」は、平成14〜16年度の厚生労働省の科学研究費による研究において作られたものであり、もともとストレスチェック制度のために開発された質問紙ではありませんでした。
作られた当時は画期的な試みではありましたが、試作的な内容であり、本当に妥当な内容なのかどうか、また、本当に予防に使えるのかどうか、議論の余地がある内容です。


たとえば、「一生懸命働かなくてはならない」という設問があります。
これは仕事の量的な負担の度合いを見るための設問ですが、「仕事なんだから真面目に一生懸命に働くべきだ」という信条や考えを聞いているように受け取ることができます。
そう受け取る人は、仕事量に負担を感じていなくても、「そうだ」に丸をつけるかもしれません。
これでは本当に測りたい内容と実際に測っている内容が異なる、つまり妥当性に問題がある、ということになります。


誰でも思うようなこうしたツッコミどころがあるにも関わらず、結局特段の議論もされず、今回のストレスチェック制度においてそのまま使われています。


「職業性ストレス簡易調査票」をストレスチェックで採用するときは、このような妥当性の問題を考慮に入れておくと、過度な期待を抱かずに済みます。


② 57問では大したことは分からない 

「職業性ストレス簡易調査票」の57問は自己記入式なので、本人が分かっている自分についてしか結果として表示されません。
もし本人の家族や専門家が本人の様子をよく観察した上でチェックした結果であれば客観性は高まりますが、そうではないのです。


ですから、ストレスチェックの個人結果のプロフィールを見ても、多くの人が「まあそりゃそうだよね、自分でも分かっていたことだよ」と思うだけで終わってしまいます。


中には「あまり調子がよくないと思っていたけど、やっぱり他の人と比べてもストレスが高く、高ストレスと言える状態なのだ」と改めて自分のストレスレベルの高さを認識することができ、専門家に相談するなどの対処行動を取る人もいます。
そのような使い方をしてもらえると、ストレスチェックの本来のねらいが達成されたと言えます。


しかしそのような使い方をする人はわずかです。
「ごくわずかでもそういう人がいて、未然に不調を防ぐことになればそれでいい」というくらいが妥当な期待のレベルです。


職場ごとの集団分析の結果も、57問だけでは、それほど大したことは分かりません。
ストレスチェックを行う時期がその職場の繁忙期なのか閑散期なのかによって、結果が異なりますので、前年と比べて職場のストレス状況が悪化しているからといって、本当に深刻に捉えるべきなのかはよく分かりません。


また、ストレス状況が実際に悪化していたとしても、そんなことは当の上司も人事部もすでに認識できていることだったりします。
しかし、そう簡単に変えられるものでもありません。
たとえば、「仕事の量的負担」が高く「同僚の支援」が不足している、という場合でも、仕事量をすぐに減らせるわけではありませんし、人を入れるのも容易ではありません。


結局、集団分析の結果も57問だけでは、すでにみんなが分かっていたことがデータで出てくるだけ、ということになります。
そのようなものを人事担当者の方から管理監督者や経営者に報告しても、「ふーん」で終わってしまいます。「ストレスが高いのは分かったけど、何をどうしたらいいの?」と聞かれたら、返答に窮してしまうかもしれません。


もし職場改善や業務改善、働き方改革に繋げたいのであれば、より細かな分析が必要になります。
ストレスチェックは、職場改善や業務改善でどのような影響が出たのかを参考程度に確認するための1つの指標には使えるかもしれません。


③ 設問を増やす     

もし人事担当者の方が「せっかくストレスチェックをやるのだから、何かしらストレスの低減につながるような職場環境の改善を促したい」とお考えになるのであれば、上に説明したように、57問の「職業性ストレス簡易調査票」では内容が不足しています。


そこで、「職業性ストレス簡易調査票」をお使いになることをお勧めします。
これも57問と同様に厚生労働省が推奨している質問紙です。


「新職業性ストレス簡易調査票」は「標準版」と「短縮版」の2種類があります。

・新職業性ストレス簡易調査票(標準版)…全120問
・新職業性ストレス簡易調査票(短縮版)…全80問


どちらにも「職業性ストレス簡易調査票」の57問がすべて含まれています。
設問の数が増えた分、より細かく受検者のストレス要因を見ることができます。


たとえば、「職場で自分がいじめにあっている (セクハラ、パワハラを含む)」など、深刻で改善の優先度が高い項目も含まれていますので、人事担当者としても、管理監督者や経営者から、メンタルヘルス対策に関する危機感や関心を引き出しやすくなるでしょう。


「新職業性ストレス簡易調査票」はまた、「仕事上の資源」や「ワーク・エンゲイジメント」(イキイキと働いている状態)というポジティブな要素についても測ることができるのが特長です。
たとえば、「仕事の出来ばえについて、上司からフィードバックをもらっている」などの設問がありますので、このような項目の点数が高ければ、管理監督者へのポジティブな説明となりますし、低ければどのようなことを心がけるべきか具体的に説明もしやすくなります。研修などにつなげることもできるでしょう。


ストレスチェックが義務化された年から1〜2年はとりあえず57問のものを採用していた企業も、それでは足りないことが分かってきて、設問数を増やす企業が増えています。


ストレスチェックの業者もそれに対応し、80問版のものを用意しているところが多いです。
57問よりは値段が少し高くなりますが、それでも得られる情報の質が高まりますので、ストレスチェックをやりっぱなしにしたくないと思う場合は、80問版をお勧めします。


120問版を用意しているストレスチェック業者はまだそれほど多くないでしょう。
そんなに多いと受検者の負担も増えますので、あいだをとって80問版がいいのではと思われます。


ただし、120問版にある「職場でいじめにあっている人がいる (セクハラ、パワハラを含む)」などの比較的重要と思われる項目が、80問版には含まれていません。


80問版にない設問をストレスチェックに入れたい場合は、ストレスチェック業者に、会社オリジナルの設問として追加してもらう、という手もあります。
オリジナルの設問を入れられるかどうかは、ストレスチェック業者によって異なります。値段も高くなりますし、集団分析結果のシートに記載できない場合もありますので、業者に確認する必要があります。


④職場環境改善の機会にするかどうか 

「ストレスチェックをきっかけに、ストレスの低減につながるような職場環境の改善を促したい」と本気で考えるのであれば、「職場環境改善」と呼ばれるものを各職場に促すという手もあります。


「職業性ストレス簡易調査票」に対応させて、いくつかの資料も以前から用意されていて、無料でダウンロードできます。

  • ・職場環境等改善のためのヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト)
    ・ストレスチェック制度を利用した職場環境改善スタートのための手引き
    ・職場改善のためのヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト)
    ・【2018改訂版】いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き(仕事のストレスを改善する職場環境改善のすすめ方)
    ・職場環境改善の継続展開のためのファシリテータ・コーディネータ用ポイントマニュアル
    ・メンタルヘルス改善意識調査票(MIRROR)
    ・職場の快適度チェック(快適職場調査 ソフト面)

     (こころの耳「職場環境改善ツール」より。URL: https://kokoro.mhlw.go.jp/manual/


参加型の職場環境改善は、管理監督者が改善方法を決めてメンバーに指示するのではなく、職場のメンバーもできるだけ多く参加して話し合い、職場環境の改善策を作ります。
雰囲気のよい職場であれば、ワイワイと話し合いながらいいアイデアが出てくるのでいい方法なのですが、忙しくてギスギスしている職場で行う場合は、事務局やファシリテーターがかなりバックアップしないと、職場の負担を増やすだけになるので注意が必要です。


いくつかのホームページや論文には、職場環境改善によって職場のストレスを低減できたとする事例が紹介されていますが、実効性のある職場環境改善に繋げるには、相応の時間と労力が要ります。ストレスチェックを機会にそこまでやるのか、検討する必要があります。
ストレスチェックという切り口で管理監督者の方々に改善を促すよりは、ストレスチェックとは切り離し、通常の業務改善の話として説明した方が理解を得やすい場合も少なくありません。


⑤管理監督者の研修の機会にする 

「多少労力やコストがかかってもいいので、ストレスチェックをきっかけとした施策を何か講じたい」と人事担当者の方がお考えの場合、コストパフォーマンスを考えると、管理監督者向けの研修が最も妥当だと考えます。
管理監督者の方々の時間を確保するのは大変ではありますが、上の④に挙げた職場環境改善よりはずっと労力は少なくて済みます。


内容はさまざまなものが考えられますが、メンタルヘルスに関した内容に限定する必要はありません。
職場の活性化やモチベーション維持をねらいとした話として研修を企画する方が管理監督者に関心をもってもらいやすい場合もあります。

(管理監督者向けの研修の例)
【イキイキとした職場づくり(1次予防)】
 ・日常的な部下とのコミュニケーション
 ・部下の望ましい行動を増やす方法
 ・管理監督者自身のセルフケア
 ・怒りのコントロールの技法

【不調者の早期発見・早期対応(2次予防)】
 ・ストレスおよび精神疾患の基礎的な知識
 ・メンタルヘルス不調者の早期発見・早期対応のポイント など


弊社でもこのような研修をご用意しています。(研修の時間や料金についてはこちらをご覧ください)


全管理監督者に研修を行うことが難しい場合は、ストレスチェックの集団分析の結果の読み方や、見てほしいポイント、職場環境の改善の工夫の例、などを資料として配布することが最も簡便です。
しかしながら、ストレスチェック業者があらかじめ用意しているパンフレットでは情報不足で、また会社の状況に即した内容になっていないことが多いものです。
弊社ではその企業に即した内容となるよう資料を作成することも承っております。


*     *     *


「ストレスチェックは法律を守るためだけにやる。集団分析もしない」と割り切るのも1つの考えですが、ストレスチェックは、年に1度メンタルヘルス対策の重要性や知識を啓発するよい機会にできますので、上記を参考にストレスチェックの計画をお考え頂くとよいのでは、と思います。

ストレスチェックに関するお問い合わせはこちら